bingxiang/冰箱

「ビンシャン」と読みます。中国語で冷蔵庫のことです

ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』冒頭部の詩を翻訳してみた

Alice In Wonderland (written by Lewis Carroll)

All in the golden afternoon
Full leisurely we glide;
For both our oars, with little skill,
By little arms are plied,
While little hands make vain pretence
Our wanderings to guide.

Ah, cruel Three! In such an hour.
Beneath such dreamy weather.
To beg a tale of breath too weak
To stir the tiniest feather!
Yet what can one poor voice avail
Against three tongues together?

Imperious Prima flashes forth
Her edict "to begin it"—
In gentler tone Secunda hopes
"There will he nonsense in it!"—
While Tertia interrupts the tale
Not more than once a minute.

Anon, to sudden silence won,
In fancy they pursue
The dream-child moving through a land
Of wonders wild and new,
In friendly chat with bird or beast
And half believe it true.

And ever, as the story drained
The wells of fancy dry,
And faintly strove that weary one
To put the subject by,
"The rest next time—" "It is next time!"
The happy voices cry.

Thus grew the tale of Wonderland:
Thus slowly, one by one,
Its quaint events were hammered out—
And now the tale is done,
And home we steer, a merry crew,
Beneath the setting' sun.

Alice! a childish story take,
And with a gentle hand
Lay it where Childhood's dreams are twined
In Memory's mystic band,
Like pilgrim's wither'd wreath of flowers
Pluck'd in a far-off land.

 

不思議の国のアリス』拙訳

みんな、あの黄金の午後の時間に
全員でのんびりと船をすべらせる
頼りなさげに2本のオールで
細い腕をせっせとふるって
小さな手がわたしたちのその漂泊ぶりに
みちすじをつけようとむなしく見せかけているあいだ

ああ、3人ともひどいものだ。こんな時間
こんな夢見心地の天気だというのに
どんな羽をそよがせることもかなわない
そんな青息吐息ぶりのわたしにお話をせがむ
でもこのあわれな、たった1つの声は
3つ合わさった舌たちにかなうはずもないのだった

誇り高きプリマがその力をさっと誇示する
勅令は「おはじめなさい」
二番手が、より優雅な口調で
「でたらめなお話にしてね」
そして三番手は語りをさえぎるのだった
1分に1度というほどではなかったにせよ

すぐさま、不意に沈黙が支配したのだった
空想の世界を彼女たちは追いかける
ある土地を、夢の子が動き回る
謎めいた未踏の驚異の地を
鳥や獣と仲良くおしゃべりをしたり
そしてそれを半ば真に受ける始末

そしてやがて、物語が流れ出て
空想の井戸も干上がってしまい
くたびれはてた1人はぼんやりと
その話題から降りようともがいた
「残りは今度で――」「いまが今度」
幸せそうな声たちがせがむのだ

この驚異の地の話は、そのようにしてはぐくまれた
ゆっくりと、1つ、また1つ
典雅なできごとがつぎつぎと精製される
そしてその物語は終えられて
わたしたちはお家へと操縦する、陽気な乗員たち
沈んでいく太陽の下へと

アリス、子どもじみたお話を1つ受け取って
そして、やさしい手で
幼き時代の夢のまとまる土地に置いておくれ
記憶が持つ神秘的な束の中
さながら遠い地で摘み取られた
巡礼者たちのしおれた花輪のように


※以下は蛇足ながらメモです……。

そもそも夜中起きてしまったので、ほんらいならさっさともらっていた頓服薬をもらってふたたび床につくべきだったのです。が、「いいや、どうせ今日休みだから」と思ってしまい、そしてスマートフォンをいじり始めたのが運の尽きというやつでした。あてどもなくネットサーフィンしつつ、ふと「そういえば『不思議の国のアリス』をひさしく読み返していないな」と思ったのです。あれはどういう物語だっただろう……思い出せるのは何やらぼんやりしたことがらばかり。確かアリスがどんどん穴の中に落ちていく話だったということ、そこから何か薬だったかジャムだったか(ぜんぜん記憶がさだかでない)を食べて身体が大きくなったり小さくなったりして、その後帽子屋とウサギが出てくるお茶会に行ったりして、さてチェシャ猫はいつ出てきたっけ……と、書けば書くほどに「で、いったい何なんだこの話は」とその無内容/ナンセンスさに愕然としてしまうのでした。何が何やら……まさに「不思議の国」というか夢をそのまま形にしたかのような話だったなと思います。

そんなことを考えて「だったら、今からでも遅くないのだから読み返してみようか」と思ったのでした。ですが問題は誰の訳で読むかという話になります。あるいは「英語で書かれた『不思議の国のアリス』を日本語に移し替えて楽しむ」ことの困難について、そしてその翻訳という行為が生み出しうる面白さについても考えたくなります……が、ぼくは実にただのどこにでもいるトーシロの読者でしかない。なので英文学を本腰を入れて語れる余裕も技量もないことを認めざるをえません。ですが、それでもあの『不思議の国のアリス』をそれこそアリス・リデルを追っかけて探索したいと思いました……そこでふと「そういえば、あの話は詩から始まったのだったな」、と。『不思議の国のアリス』は言葉遊びがふんだんに盛り込まれた、実にクセがある言語感覚で生み出された高度にテクニカルな話ですが、ふとその冒頭の詩を原語の英語で読みたくなったのです。いったいなぜなのかわかりません。「不思議の国」なのはぼくの頭の中そのものかもしれません。

そんなわけで、ネットを調べてルイス・キャロルが生み出した『不思議の国のアリス』というテクストを見つけ出しました。そして、「これをぼくの日本語で訳すとどうなるんだろう」と考え始めたのです。こうして「他者」が記した詩、それゆえに勝手に意味を改変したりできない純然たる「外部」のテクストと虚心に向き合いそしてそれを自分なりのつたない言葉に編み直していく、そうした作業をするのも勉強になるなと思いました。それでやってみたのですが、まあそれが難しいことと言ったら。「ご笑覧ください」という言葉をそのまま捧げて終わりにする他ありません。もっとも、ルイス・キャロルのテクストやそれを達意の日本語に移し替えた先人たちの偉業としての翻訳が生み出しうるような微笑みと比べると、ぼくの拙訳はたんに苦笑・憫笑を誘うものでしかないかなと思い、そう考えると己の浅学非才ぶりにあらためて悲しくなるのでした。

このテクストを作るのに参考にさせてもらった先人たちの仕事です。

bilinguis.com

 

kakuyomu.jp


前者はぼくの努力不足で具体的にどなたが訳されたのかまではわかりませんでした。読みやすく、意味をくみ取りやすいいい訳だと思います。後者はカクヨムで活躍されている茜町春彦さんの訳。典雅な漢語を「やりすぎ」にならない程度に上品にちりばめた、興味深い訳です。